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遠近 をちこち 東尾厚志さん

「ご縁を大切にしながら、ものの背景を伝えたい」

 

第二回目は、徳島市上八万町で民藝の器や土地らしさを感じる手しごとのものを扱うお店「遠近 をちこち」を営む東尾厚志さんにお話を聞きしました。

 東尾さんは徳島県神山町の出身。大阪の大学へ進学し、卒業後は地元の企業に就職。そこで家具や雑貨を扱う仕事に就き、流行のものやデザイナーズのもの、大量生産で作られたものなど、さまざまな世代のニーズに合わせた商品を扱ってきました。その中で、時代を超えてスタンダードになっている民藝の器や柳宗理のプロダクトに触れたことが独立するきっかけになったそうです。
 
 「トレンドのものではなく、長く使えるものを伝えていきたいという思いが強くなってきたんです。」と東尾さん。17年勤めた会社を退職し、2011年徳島市内にお店を開業。1Fで東尾さんがセレクトした民藝の器や焼き物を提案する「東雲(しののめ)」を、2Fで奥さんの智子さんが東欧などで買い付けてきた雑貨を扱う「レテンカ」を営んでいましたが、場所も新たに2016年、ご夫婦で「遠近 をちこち」をはじめました。

  建具屋さんの倉庫だった建物を改装した店内。
 

 「お店に並ぶ器は、沖縄、九州、鳥取、島根などお店をはじめる前に訪ねた窯元のものなります。大量生産のものではないので仕入れる数を確保するのが難しくなってきているのが正直なところです。とはいえ、新しい取引先を増やしたいわけではなく、窯元さんと細く長くお付き合いできらたらと思っています。」

 東尾さんが産地を訪ね、ものづくりの姿勢や作るものの魅力に惹かれた器には、作り手の思いはもちろん、東尾さんの思いも込められています。

  沖縄のやむちんや、島根県の出西窯、大分県の小鹿田焼などの器が並ぶ棚。
 

 ご自身で作り手のところへ会いにいく場合もあれば、お店が出会いの場になることも。店内には、訪ねてくれたのをきっかけにお付き合いがはじまった作家さんの洋服や手しごとのものも多く並んでいます。
 
 東尾さんが大切にしているのは“ものの背景を伝えるお店づくり”。どのようにして作られたのか、どんな思いで作ったのか、ものが生まれるプロセスにはさまざまな物語があるからです。「遠近 をちこち」はお客さんが作り手の思いに耳を傾け、共感が生まれるきっかけになるよう、個展や受注会を開催しています。
 
 これまでさまざまな産地の器をはじめ、ハンドメイドのニットのオーダー会、インドの洋服やギャッベ(イランの遊牧民の母から娘へと受け継がれていく伝統的な織絨毯)の展示会、靴のセミオーダー会などさまざまな催しを行なってきました。大量消費社会の現代は、たくさんのモノが溢れ使い捨てられています。そんな中、お客さまが作り手から直接購入できる体験は、ものとの付き合い方や暮らしと向き合うきっかけになっているはずです。

店内のカフェスペース。販売している器に盛られたスイーツやコーヒーが味わえるほか、椅子にはノッティング織り椅子敷きが。毛足が長く柔らかな座り心地です。
 

 「東雲」から「遠近 をちこち」になり、ものの背景を伝える新たな取り組みとしてはじめたのがカフェの営業。店内に併設されたカフェスペースは、中央の大きなテーブル席と、窓の外の景色が眺められる2人席のテーブルが3つあり、智子さんお手製のスイーツやコーヒーを楽しむことができます。

 「実際にお店で販売している手しごとのものを使っていただく体験として、カフェをはじめました。“美味しい”や“気持ちいい”など、器を触っただけでは伝わらない感覚を味わっていただきたいです。カフェをはじめたのにはもう一つの理由があって、東雲からの常連のお客さんの中には、食器棚に器が置けなくなってきた方も増えてきたので、買い物じゃなくても足を運んでいただける店にしたかったというのもあります。」

 
 

東尾さんが染めた藍染の壁紙は商品を引き立てます。
 

 「遠近 をちこち」は地元の職人さんが染めた藍染の手ぬぐいや大谷焼きの器、阿波番茶など、東尾さんとつながりの深い徳島の手しごとのものも扱っています。

 「徳島の個性が感じられる、地元らしいお店でありたいですね。県外の方が来られたときに徳島の雰囲気を伝えられるお店にしたい」と語る東尾さんは、徳島県藍染研究会に所属し、阿波藍の灰汁発酵建てによる藍染めを学んでいます。店内の壁紙には、ご自身が藍染で染めた紙を壁一面に取り入れました。濃淡さまざまな美しい藍色の純粋さは、しばらく見とれてしまうほどです。
 
 「自分がいいと思ったものを並べられたとしても、私はご縁を大切にしたいです。お付き合いのある窯元さんや作家さんの思いを伝えていけるお店であり続けたいですし、これからもお付き合いしてもらえるように、面白いことをやり続けていきたいと思っています。」
 
 人とのつながりや作り手をリスペクトする東尾さんの思いはお客さんへと伝わり、徳島の暮らしの中で手しごとのものが育まれていく。そんな日常が遠近(おちこち)に広がっていくことでしょう。

 
 

 最後に、東尾さんがどんなお家に住んでいるのか聞いてみました。

 古い一軒家を借りて住んでいるお家には、職業柄、器がたくさんあるそうです。民藝の器だけでなく、勤めていたころに買ったもの、奥さまが集めた東欧のものなど、まさに渾然一体! 東尾さんが歩んできた人生が詰まっていると言っても過言ではない食器棚。これからも器と共に暮らし、働きながら、普遍的で美しい手しごとのものの魅力を発信しつづけていくのだと感じました。
 
 
 
 
さて次回は、

東尾さんからのご紹介は、
「カリモク60」の家具や作家ものの器、
レディースの日常着など扱うセレクトショップ
「Plane Table」のオーナー藤川博文さんです!